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高知地方裁判所安芸支部 昭和61年(ワ)14号 判決 1990年7月24日

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告の昭和六〇年八月一四日の総会における原告の漁業権行使を禁止した決議及び昭和六一年一月一九日の総会における原告を除名した決議は、いずれも無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、水産業協同組合法に基づいて設立された漁業協同組合であり、原告は、昭和六一年一月一九日当時その組合員であった。

2  被告は、昭和五八年七月二三日高知県知事から第二種共同漁業権(小型定置)共第二五三二号、共第二五三三号、共第二五三四号、共第二五三五号、共第二五三六号の免許を受けている。

3  被告は、右共同漁業権の行使については、羽根町漁業協同組合共同漁業権行使規則(以下、規則という。)を制定し、漁業権管理委員会(以下、委員会という。)の決定によって漁業権行使者を定め、その定められた漁業権行使者と漁業権行使契約を締結し、漁業を行わせていた。

4  原告は、昭和五八年九月一七日委員会の決定により、前記共第二五三四号(第二小型定置羽根町船場前)の漁業権(以下、本件漁業権という。)の行使を許され、その期間は五年間と定められた。そこで、原告は、直ちに被告代表者の組合長川口晴道と漁業権行使契約を締結し、操業を開始した。

5  原告は、以来昭和五八年、昭和五九年と操業し、昭和六〇年九月にその年の操業にとりかかろうと準備していたところ、被告は、同年八月一四日の通常総会において、原告が何ら規則に違反した操業を行っていないのに一部の者の煽動によって事実調査もないままに、原告が違反操業をしているとして、突如原告の前記漁業権の行使を認めない旨多数決をもって議決し、原告の船場前における小型定置網の敷込みを拒否して、原告の操業を阻止するに至った。

しかしながら、原告は規則に違反する行為は行っていないので、右のような虚偽の事実を理由とする被告の議決は無効というべきである。

6  被告の右強行議決については、議事録の記載が事実に反するということもあって、総会に出席した理事のうち三名が署名を拒否するに至ったので、正規の議事録は未だ作成されていない。

このようなことから、高知県水産課は事態を憂慮し、その斡旋によって解決を計ろうと努力したが、同年末になっても解決に至らなかった。

7  しかるに、被告は、昭和六一年一月一九日臨時総会を招集し、原告を除名する旨の決議をし、原告に通知した。右除名の理由は、(一)規則七条一項に違反し、被告の信用を著しく失わしめた、(二)役員の忠実義務に違反した行いをした、というものであったが、原告は、前記のとおり規則に違反した行為もなく、いわんや被告の信用を失墜させるような行為はしていないし、役員としての忠実義務に違反したこともないので、右被告の決議は無効というべきである。

8  そこで、原告は、昭和六一年二月五日右除名の決議について手続違反の理由で高知県知事に対し、水産業協同組合法一二五条により決議取消の申立をした。高知県水産課は、前年からの経緯もあって再度調整に入ったが、調整がつかないまま、同年八月二三日高知県知事は右申立を却下した。

9  よって、原告は、被告の5、7掲載の決議はいずれも無効であるから、その確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の各事実は認める。

2  同3の事実は否認する。

3  同4の事実のうち、原告が操業したことは認め、その余は否認する。

4  同5の事実のうち、被告が原告主張の通常総会で原告の漁業権行使を認めない旨の決議をしたことは認め、その余は否認する。

5  同6前段の事実のうち、総会に出席した理事のうち三名が署名を拒否したことは認め、その余は否認する。

同6後段の事実は認める。

6  同7の事実のうち、被告が、昭和六一年一月一九日臨時総会を招集し、原告を除名する旨の決議をし、原告に通知したこと、右除名の理由は、(一)規則七条一項に違反し、被告の信用を著しく失わしめた、(二)役員の忠実義務に違反した行いをした、というものであったことは認め、その余は否認する。

7  同8の事実は認める。

三  被告の主張

1(原告に対して本件漁業権の行使を停止し、漁具撤去を要求した被告の昭和六〇年八月一四日の通常総会決議(以下、昭和六〇年八月一四日総会決議という。)の有効性)

原告は、被告内の有効な手続を経ずして、本件漁業権を行使していたものであり、昭和六〇年八月一四日総会決議は有効である。

(一)  漁業権行使のための手続

(1) 被告内において、漁業権を行使するためには委員会の許可決定(規則七条一項)及び被告の総会の議決を要する。被告の総会議決をも要件としたのは、被告においては、過去に委員会だけの決定に基づいてなされた事業が被告に損害を与えたため、委員会の委員を選出せず、漁業権に関する事項はすべて総会の議決もしくは総会の議決により一任された理事会の議決により取り決めていたのであるが、昭和五七年になって高知県からの指導があり、委員会の委員を選出するようになるに際して、それまでの経緯から総会にもその権限を留保するためであった。(2)イ ところで、昭和五七年度の通常総会の議事録には、「漁業権の行使者変更又は漁場変更の件については総会の議決に基づいて行う」旨の記載があるが、総会にその権限を留保した前記理由、経緯からすると、その留保した事項は、漁業権の行使者変更又は漁場変更にとどまらず、漁業権の新たな設定をも含むことは明らかである。

ロ また、右昭和五七年度の通常総会の権限留保の議決は、昭和五八年度の通常総会において変更されているものではない。昭和五八年度の通常総会においては、従前の規則を原則として追認し、軽微な字句修正を組合長に一任しているに過ぎず、総会の留保権限については何ら審議議決されてはいないからである。

ハ なお、総会は被告の最高意思決定機関であり、商法二三〇条ノ一〇に規定するような総会の権限を制約する法文のない限り、被告内のいかなる事項についても意思決定をなし得るというべきであるから(水産業協同組合法第四八条)、委員会の権限についても総会に留保することができるものである。とりわけ、共同漁業権の行使に関する事項は、組合員間の利害が鋭く対立するものであり、たかだか五名の管理委員の専権に委ねるよりも総会での審議議決をも必要とするのが、結論の妥当性、公平を確保できるのである。

(二)  原告の漁業権

本件漁業権は、(一)に述べた漁業権行使のための手続を経ていないものである。

(1) まず、委員会は、本件漁業権を原告に行使させることを決定していない。漁業権の行使者の設定という重大事項について決議をしていないので、漁業権行使者についての決定があったとはいえない。

(2) 仮に、原告に本件漁業権を行使させることについて、委員会の決定があったとしても、被告の総会決議を経ていない。

(3) よって、原告の本件漁業権行使は、被告内の有効な手続を経ていないもので、無許可操業である。

(三)  本件漁業権行使の停止決議について

被告の最高意思決定機関は総会であって、(一)(2)ハに述べたところと同じく、無許可で本件漁業権を行使している原告に対する操業停止の決議もなし得るというべきであり、当時の組合長が右決議の執行を行ったものである。

以上のとおり、昭和六〇年八月一四日総会決議は有効である。

2(原告を除名した被告の昭和六一年一月一九日の臨時総会決議(以下、昭和六一年一月一九日総会決議という。)の有効性)

原告には、被告の定款一五条一項四号及び三五条一項の違反事由があるから、昭和六一年一月一九日総会決議は有効である。

(一)  すなわち、定款三五条一項に、「役員は法令、法令に基づいてする行政庁の処分、定款、規約及び総会の決議を遵守し、組合のため忠実にその職務を遂行しなければならない。」との定めがあり、一五条一項に、「法令、法令に基づいてする行政庁の処分またはこの組合の定款、行使規則(漁業権行使規則および入漁権行使規則をいう。以下同じ。)もしくは規約に違反し、その他組合の信用を著しく失わせるような行為をしたとき。」(四号)は、組合員を総会の議決によって除名することができる旨の定めがある。

(二)  原告は、昭和一八年から昭和六一年一月一九日の除名決議がなされるまで、被告の理事の役職であったものである。原告は被告の昭和五七年度の総会において、正組合員の二分の一以上の出席のもとに漁業権の行使者の決定は総会の決議に基づいて行う旨の決議が全員異議なくなされていたのに(特別決議の要件を満たしている。)、総会の決議もなく、また、委員会の決定がないにもかかわらず、昭和五八年一〇月ころから本件漁業権を行使した規則違反があり、昭和六〇年八月一四日総会決議がなされたにもかかわらず、右決議を無視し、右要求に応じなかったものであるが、最高意思決定機関である総会の決議を無視する組合員の存在は、組合の対内的、対外的信用を著しく失墜させるものというべきである。

(三)  右原告の行為は、定款三五条一項の総会の決議を遵守すべき忠実義務に背くもので、同一五条一項四号の組合の信用を著しく失わせるような行為をしたときに該当する。

以上のとおり、昭和六一年一月一九日総会決議も有効である。

四  被告の主張に対する認否及び原告の反論

1  被告の主張1冒頭の事実は否認する。昭和六〇年八月一四日総会決議は無効である。

(一) 同(一)の事実は否認する。

共同漁業権の行使者の決定が総会の権限であったのは、被告内に委員会が設置されていなかったころのことであり、昭和五七年に高知県の指導により規則が制定され、管理委員が任命されてからは、右は委員会の権限となった。規則は、漁業法八条一項によって共同漁業権ごとに制定されるものであり、その制定の方法は、水産業協同組合法五〇条により総会の特別議決によって決議されたものを県知事が認可することによって効力を生ずることになっているものであり(漁業法八条四項)、これを変更改廃するについても、総会の特別決議と県知事の認可がなければ効力を生じないのである(被告の定款四四条)。

そこで、仮に、共同漁業権を行使するために委員会の許可決定の他に被告の総会の議決を要する旨の留保がなされているとしても、その旨規則に記載し、高知県知事の認可を得なければ、右の留保は漁業法、水産業協同組合法に違反し、効力を生じないものである。本件においては、規則にはその旨の記載はないし、高知県知事の認可も得ていない。

(二) 同(二)の事実は否認する。

原告は被告に対し、昭和五八年七月ころ本件漁業権の行使の申請をしていた。当時、本件漁業権を除くその余の共同漁業権についてはその行使者が既に決定していたが、本件漁業権については行使者が未定であったので、被告の組合長川口晴道は被告の委員会に対し、本件漁業権を原告に行使させることの可否について諮問した。委員会は、数回の論議の後、昭和五八年九月一七日の会議で本件漁業権の行使者を原告と定め(その際、枡網漁業についての漁業権の行使者も池内健三他三名に決定され、同人らは右決定に基づき現在も操業している。)、被告の理事(組合長川口晴道)に文書をもってこれを通知した。組合長理事川口晴道は、右報告に基づき直ちに原告との間に小型定置漁業権行使契約書を作成した。原告は、右契約に基づき同年一〇月から本件漁業権を行使し操業するようになった。

よって、原告の本件漁業権行使は適法なものである。

(三) 同(三)の事実は否認する。

共同漁業権行使に関する規制は、規則に基づいて適正に規制されるべきものとされ(規則一条)、規則違反者に対しては理事が漁業の停止をさせることができる旨規定しており(同一〇条)、漁業権行使の停止の権限は理事が保有しているものであり、本件漁業権行使の停止決議は、総会の権限に含まれない。

また、右決議は、原告に本件漁業権行使の許可がないことを前提としているものであるが、原告が本件漁業権の行使を許可されていることは前記のとおりであるから、前提を欠くものである。

よって、昭和六〇年八月一四日総会決議は無効である。

2  被告の主張2冒頭の事実は否認する。

昭和六一年一月一九日総会決議のなされた当時の被告の組合員は、三一六名であり、出席者は本人出席七〇名、代理出席一四三名であるというが(乙第一一号証)、本人出席者、代理出席者の中には、一三名の死亡者がおり、代理出席者の中には、一九名の他市町村居住者が存在している。これによると、当日の本人出席者、代理出席者の数は不明であるといわざるを得ず、定足数を満たしていたかどうかも不明であるから、会議は不成立である。

(一) 同(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実のうち、原告が昭和一八年から昭和六一年一月一九日総会決議がなされるまで、被告の理事の役職にあったことは認めるが、その余は否認する。

(1) 昭和六〇年八月一四日総会決議は、組合員たる原告に対する制裁として議決されたものであり、役員たる原告に対してなされたものではないから、役員の忠実義務に違反するところはない。

しかも、右決議は前記のとおり無効であるから、これに服する義務もないのであって、除名の理由とはならない。

(2) 原告は、本件漁業権の行使について、委員会の許可を得ていたことは前記のとおりであるから、無許可操業をしたとの虚偽の事実を前提とする昭和六〇年八月一四日総会決議は無効である。

(三) 同(三)は争う。

第三  証拠(省略)

理由

一  請求原因1、2の各事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因3について

原告は、被告内における共同漁業権行使者決定の手続について請求原因3のとおり主張し、被告は、被告の主張1(一)のとおり主張するので、検討する。

成立に争いのない甲第四号証、乙第一四、第一五号証、証人池内明治、同加古川千代松及び同池田進の各証言、被告代表者本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、昭和五七年以前は、被告内の共同漁業権の行使者の決定は、理事会に申し込み、理事会で決定したうえ、最終的には総会で議決するという方法でなされていたこと、昭和五六年の総会の際に、委員会の委員の選任の提案があったが、以前に委員会の決定に基づいてなされた被告自営の小型定置漁業により大きな赤字を出したことがあったので、総会の決議でやるほうがよいとの意見が出されたため、委員会の委員の選任はなされなかったこと、昭和五七年の通常総会において、共同漁業権行使規則の一部変更に伴い、委員会の委員五名が選出されるとともに、「但し、漁業権の行使者変更又は漁場変更の件については総会の議決に基づいて行う」旨の決議が全員一致でなされたこと(正組合員二九五名、出席者七五名、委任状提出者二二〇名)、また、「共同漁業権更新承認並びに同意の件」との議案で、昭和五八年に共同漁業権の免許の更新時期を控えているため、この更新の同意がなされ、定置及び小型定置の沖出しの件(漁場の変更に該当すると考えられる。)についても承認がなされたこと、昭和五八年の通常総会において、昭和五八年九月一日付の新免許の取得に伴い、共同漁業権行使規則制定の必要が生じ、同規則(甲第四号証。甲第一〇号証、乙第三二号証はその写し)が制定されたこと、仮に、原告主張のように、右昭和五七年(ないし昭和五八年)の通常総会において、共同漁業権の行使者の決定につき、従前の方法を変更して総会の議決ないし委員会がその決定をすることになったとすれば、共同漁業権の行使者の決定という組合員にとって極めて利害関係の強い事柄の性質上、総会で議論がなされたはずであるのに、議事録上その形跡がないこと、以上の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によると、共同漁業権の行使者の決定が、昭和五七年に高知県の指導により規則が制定され、管理委員が任命されてからは、右は委員会の権限となった旨の原告の主張は採用できず、共同漁業権行使規則が制定され、漁業権管理委員が任命された後も、被告においては、共同漁業権の行使者の決定の最終的権限は従前どおり総会が有していたものと認めるのが相当である。

なお、原告は、規則は、漁業法八条一項によって共同漁業権ごとに制定されるものであり、その制定の方法は、水産業協同組合法五〇条により総会の特別議決によって決議されたものを県知事が認可することによって効力を生ずることになっているものであり(漁業法八条四項)、これを変更改廃するについても、総会の特別決議と県知事の認可がなければ効力を生じないのである(被告の定款四四条)と主張するが、そもそも委員会を設置するか否かについての決定権限は総会が有しているのであるから(委員会の設置は、漁業法八条二項の「その他当該漁業を営む権利を有する者が当該漁業を営む場合において遵守すべき事項」に該当するに過ぎない。)、委員会にどのような権限を授与するかは総会が決することができ、共同漁業権の行使者の決定の最終的権限を総会に留保する旨決議することも可能であると考えられる(本件では、右決議は特別決議の要件を満たしていることは、前記認定の事実から明らかである。)。そして、「総会は組合員の総意により、組合の意思を決定する必須の機関である。総会は法令・定款に反しない限り、組合に関する一切の事項につき議決することができ、その議決は役員を拘束する。この意味において総会は組合の最高機関である」(上柳克郎著法律学全集「協同組合法」九八頁)から、共同漁業権の行使者の決定の最終的権限を総会に留保する旨の決議は有効であり、これが無効であるとの原告の主張は採用し難い。そして、被告内における共同漁業権の行使者の決定についての従前の方法が前記のようなものであったこと、昭和五八以降も実質的には従前の方法に変更を加えるものではないことから考えて、共同漁業権の行使者の決定の最終的権限を総会に留保する旨の決議について県知事の認可がないから無効であると解釈すべき理由もないから、この点の原告の主張も採用し難い。

三  請求原因4について

証人川口晴道、同堀川貞明及び原告本人は、請求原因4の主張に沿う供述をし、甲第五、第六号証にも右に沿う記載があるが、右各供述及び記載は、証人池内明治及び同北代順一の各証言により真正に成立したと認められる乙第四号証の一、二、被告代表者本人尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第六、第七号証、証人池内明治、同北代順一、同加古川千代松の各証言、被告代表者本人尋問の結果に照らし信用し難く、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

すなわち、被告代表者本人尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第一七号証の一ないし一三、前掲各証拠と弁論の全趣旨によれば、昭和五七年の総会で、漁場の一斉沖出しが問題となり、本件漁業権にかかる漁場については、九尋以上沖出しすると、後面に当たる花岡漁重の漁場の漁獲高に影響が出て、魚がとれなくなるという理由で九尋以上の沖出しをしてはならない旨の議決がなされたこと(但し、総会議事録にはその旨の記載が欠けている。)、他の漁場については共同漁業権いっぱい(一七尋、二七メートル)に沖出しすることが承認され、昭和五八年に一斉沖出しがなされたこと、原告は昭和五八年七月ころ本件漁業権の行使の申請をしたこと、当時、本件漁業権を除くその余の共同漁業権についてはその行使者が既に決定していたが、本件漁業権については行使者が未定であったので、被告組合長川口晴道は委員会に対し、本件漁業権を原告に行使させることの可否について諮問したこと、委員会は、数回開かれたが、原告に本件漁業権を行使させるか否かという点と一斉沖出しする計画(それまでは九尋で操業していた。)を原告にもさせてはどうかとの点については、結論を出すに至らず、その結果右各案件は理事会に戻すということになったこと、同年一〇月一〇日被告の理事池田進らが、同年九月二七日の理事会に提案された本件漁業権にかかる漁場についての沖出し等に反対し、被告組合員二九五名のうち二二二名の署名を添えて、臨時総会の開催の申し入れをしたが、当時の被告組合長川口晴道は、書類が不備であるとの理由で臨時総会の開催を拒否したこと(乙第四一号証)、昭和五九年の通常総会において、委員会及び理事が本件漁業権の操業区域を調整して漁業権行使を認めてはどうかとの提案がなされ、その調整が理事に一任されたこと、右に基づき、昭和五九年一一月ころに、理事の仲介により原告と花岡漁重との間で話合がもたれたが、原告は沖出し一七尋、花岡漁重は一五尋で物別れに終わったこと、他の共同漁業権行使者との間では、甲第六号証のような共同漁業権行使契約書の作成はなされていないこと、右共同漁業権行使契約書及び「規則第七条の決定について(報告)」と題する書面(甲第五号証)の原本は被告には保管されておらず、昭和六〇年の通常総会の際にも、原告は無許可操業であるとの指摘に対して、具体的な理由を述べて反論することもせず、右共同漁業権行使契約書ないし「規則第七条の決定について(報告)」と題する書面を提出することもしなかったこと、また、当時の被告組合長川口晴道も本件漁業権行使契約について明確な説明をしなかったこと、原告は、後記本件漁業権の行使禁止の決議がなされ、被告から右決議に従うように勧告されて後、委員会の許可を受けている旨を述べたこと、そのため、右の真偽をただすべく昭和六〇年九月二九日に委員会が開催されたが、委員会は原告主張のような許可をしていないことが確認され、その旨被告に報告されたこと、以上の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実に照らすと、原告が真実委員会の許可を受けていたとすれば、本件紛争の発端となった昭和六〇年の通常総会の際に、右共同漁業権行使契約書ないし「規則第七条の決定について(報告)」と題する書面の写しを提出するなどして、無許可操業であるとの指摘に反論しなかったことは、理解に苦しむところであり、また、他の共同漁業権行使者との間では共同漁業権行使契約書が作成されていないのに、原告についてのみそれが作成されていることも不自然であるといわざるを得ず、甲第五、第六号証の各記載は信用し難く、同趣旨の証人川口晴道、同堀川貞明及び原告本人の各供述も信用し難い。

四  請求原因5について

請求原因5の事実のうち、被告が昭和六〇年八月一四日の通常総会で原告の漁業権行使を認めない旨の決議をしたことは当事者間に争いがなく、右事実と成立に争いのない甲第九号証(四丁裏一五行目から一六行目の「全員一致」を「賛成多数」に訂正し、前組合長川口晴道の署名押印と後任の組合長林竹松の署名押印を付加したものが乙第一号証)によれば、昭和六〇年の被告の通常総会において昭和六〇年八月一四日総会決議がなされたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

前記二、三に述べたところによると、原告の本件漁業権の行使は、委員会の許可を得ていたものとは認め難く、また、昭和五八年の総会で原告に本件漁業権の行使をさせる旨の決議がなされていないことは明らかであるから、原告の本件漁業権の行使は無許可操業であり、これを理由として本件漁業権の行使を禁止し、漁具撤去を要求した昭和六〇年八月一四日総会決議は有効であると考えられ、これが無効であるとの原告の主張は理由がない。

なお、被告の共同漁業権行使規則(甲第四号証)には、一〇条一項(違反者に対する措置)に漁業の停止を理事の権限とする旨の規定が存在するが、総会は法令・定款に反しない限り、組合に関する一切の事項につき議決することができ、その議決は理事を拘束するから、本件漁業権の行使停止の決議が総会の権限に含まれないとの主張は採用し難い。

五  請求原因7について

請求原因7の事実のうち、被告が、昭和六一年一月一九日臨時総会を招集し、原告を除名する旨の決議をし、原告に通知したこと、右除名の理由は、(一)規則七条一項に違反し、被告の信用を著しく失わしめた、(二)役員の忠実義務に違反した行いをした、というものであったことは当事者間に争いがない。

原告は、「昭和六一年一月一九日総会決議のなされた当時の被告の組合員は、三一六名であり、出席者は本人出席七〇名、代理出席一四三名であるというが(乙第一一号証)、本人出席者、代理出席者の中には、一三名の死亡者がおり、代理出席者の中には、一九名の他市町村居住者が存在している。これによると、当日の本人出席者、代理出席者の数は不明であるといわざるを得ず、定足数を満たしていたかどうかも不明であるから、会議は不成立である。」と主張するが、成立に争いのない乙第四四号証、被告代表者本人尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第一一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第四五号証の一ないし一四三及び被告代表者本人尋問の結果によれば、死亡者については、組合員名義の変更が事務の都合で未了となっているに過ぎない者もいること、委任状の提出者は一四三名であり、右委任状にはいずれも室戸市羽根町が住所として記載されていることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はなく、右事実及び前掲乙第一一号証によれば、昭和六一年一月一九日の総会には少なくとも特別決議をなすに必要な組合員の過半数の出席があったものと認めるのが相当であるから、原告の右主張は採用し難い。

そこで、昭和六一年一月一九日総会決議の効力について検討するに、成立に争いのない乙第二号証(甲第七号証)、第八ないし第一〇号証、第一二号証(甲第八号証)、第一三号証、前掲乙第一一号証、証人加古川千代松及び同池田進の各証言、同尋問の結果、原告本人尋問の結果によれば、被告は原告に対し、昭和六〇年九月二一日付の書面で、昭和六〇年八月一四日総会決議に基づき、本件漁業権の行使は違反操業であるから同年九月三〇日までに漁具、漁網を撤去するように勧告し、その後、委員会の許可を受けている旨の原告の回答に対し、前記三に述べた委員会を開催して調査のうえ、同年一〇月八日付の書面で反論し、さらに、同年一二月九日付の内容証明郵便で、同年一二月一六日までに漁具を撤去するように再度請求したこと、にもかかわらず、原告が被告の要求に従わなかったため、被告は臨時総会を開催して、全員一致で昭和六一年一月一九日総会決議をなしたこと、なお、右総会には原告は出席しなかったが、被告に迷惑をかけているが十分に話し合って円満に操業をしていきたい、除名については組合の意向に沿って操業するので避けてもらいたい旨の申入書を提出したこと、以上の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

前記二ないし四に述べたところと右事実によると、原告には、委員会の許可及び総会の決議がないのに、本件漁業権を行使した規則違反があり、かつ、昭和六〇年八月一四日総会決議(これが有効であることは前記のとおりである。)及びその後の度重なる被告の請求にもかかわらず、漁具、漁網を撤去せず、被告の意思に反した行動をとり続けた点において、被告の定款一五条一項四号にいう「その他組合の信用を著しく失わせるような行為をしたときに」該当する事由があるものと認められるから、これをその理由の一つとしてなされた昭和六一年一月一九日総会決議は有効であると考えられ、これが無効であるとの原告の主張は理由がない。

六  以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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